食の可能性を広げ、「ものを売る」の一歩先へ

Tide&Taste クリエイティブディレクター
西 恭平

– Tide&Tasteとは、どのようにして生まれたのでしょうか?
自分の中にずっと、こんなお店があったらいいな、僕だったらこういうお店に通いたいなというイメージがあったんです。そこが出発点ではあるんですけど、そもそもこの施設内に「日本食品総合研究所」というプラットフォームができたときから、魅力的なコンテンツのひとつだとは強く感じていました。

今回新たにオープンした「Tide&Taste」は、スーパーマーケットの便利さとセレクトショップの感性を融合した“セレクトマーケット”です。同じ施設内には、ラボラトリー&ファクトリーの「研究所」とテストキッチン「調理室」、カフェ&ワインバー「Mary Jane」の4つのスペースがありますが、それらが緩やかにつながり、境界が少しずつ曖昧になっていくような形で存在できたらと思っています。

今まで僕が携わってきたのはレストランが中心で、食物販というのは社内でも今までになかった業態でもあったので、新しいことに挑戦できるという期待感はすごく大きいですね。Tide&Tasteを通じて、生産者さんやシェフ、お客さんの距離が縮まり、食に関わるコト・モノのあらゆる可能性が広がっていく。そんな流れを生み出す場になれたらと考えています。

 

– “セレクトマーケット”の魅力とは?
そこに行くことで新しい感覚に出会えたり、自分にとって発見があることですね。僕自身、セレクトショップに行くのがすごく好きなんですけど、洋服を扱っているお店は多いものの、セレクトショップのような世界観を“食”で表現しているお店は、実はあまり多くないと感じていました。そういったこともあり、食を中心にしながら暮らしにまつわるものを幅広く取り扱うことでスーパーマーケットの要素をミックスさせ、それぞれの良いとこ取りをしたのが“セレクトマーケット”です。調味料ひとつにしても、こんなに種類があるんだ、見たことないな、と面白がっていただけたら。あらゆるものの中から「自分で選ぶ」ということは、毎日の生活に楽しさを生み出すはずです。

Tide&Tasteは、個性溢れるメンバーたちと一緒にチーム一丸となって作り上げていったお店です。それは、バイヤーが全国各地からこだわり抜いて選んだ商品であり、フレンチや和食、中華などそれぞれのジャンルで活躍するシェフのアイデアが詰まったプライベートブランドの商品であり、店内で楽しんでいただけるメニューや空間であり……。いたるところに反映されていると思います。



– 店名に込める思いと、その理由について教えてください。
Tideには「潮流」という意味があります。それは時代や人の流れ、流行などいろんなものが含まれると思うんですけど、流行やトレンド=消費されていくものだけじゃないよねっていう考えが僕の中にずっとあるんです。数あるものの中からいいと思うものを自分なりに解釈して、皆さんそれぞれの「好み」、まさに自分だけのTasteを見つけてほしいなと思います。それは今の時代のひとつのテーマでもあるんじゃないでしょうか。東京・代官山というさまざまなトレンドが常に生まれている場所だからこそ、時代の流れや価値観をとらえながら、多くの人が本質的に良いと感じるものを提案していきたいです。ぜひ、いろいろな方に利用してもらいたいですね。


– 商品を企画するとき、あるいは選ぶときのポリシーは?
Tide&Tasteで扱う商品をセレクトするとき、私たちが商品を開発するときの基準はおもに5つあります。具体的には、wellness(ウェルネス)、uniqueness(ユニークネス)、local(ローカル)、seasonal(シーズナル)、eco-friendly(エコフレンドリー)です。まず第一においしいもの、というのは前提として、体にやさしいもの、独自性があるもの、日本の地域や季節の魅力が詰まっているもの、環境への負荷が少ないもの。これらのポリシーをひとつでも多く取り入れたものを、皆さんに提供したいと考えています。

僕らが商品を企画するうえで、サステナビリティは重要なテーマです。何か課題を抱えていたり、社会的な問題と向き合っている生産者さんと協業して商品を作ったり、プロジェクトに取り組んだりというのは、今後さらに注力していきたいと考えています。



– Tide&Tasteの強みや目指すところ、今後の展開について教えてください。
商品開発には一貫して担当シェフが関わり、さらには2階スペースでは商品にちなんだイベントなども企画しています。たとえば、生産者さんをゲストに招いて商品にまつわるトークイベントや、家庭でも取り入れやすい食の手仕事にまつわるワークショップなどです。そういったことが実現できるのは、Tide&Tasteならではの大きな強みだと思っています。

店内の一角ではポップアップも随時開催していく予定です。作家さんの器の展示販売だったり、ローカルのレコード屋さんや本屋さんも面白そう、なんて考えたりしています。食はもちろん、幅広いテーマや独自の切り口になるはずなので、きっと楽しんでいただけるんじゃないかなと。皆さん、Tide&Tasteをどうぞよろしくお願いします。

 

Profile

西 恭平 Kyohei Nishi

1983年、京都府生まれ。京都調理師専門学校製菓部卒業後、京都のホテルにて5年間勤務。のちに渡仏し、アルザスにて1年間研鑽を積む。帰国後は京都のビストロやホテルを経て、東京のミシュラン2つ星「キュイジーヌミッシェルトロワグロ」にて3年間勤務。各部門のシェフドパルティを務める。2014年より渋谷「 ビストロロジウラ」 シェフに就任し、ミシュランガイド東京では5年連続ビブグルマンを獲得。2020年、日本橋兜町に「Neki」オープン。ミシュランガイド東京2022でビブグルマンを獲得。2022年11月、薪火をテーマとしたレストラン「songbook」をオープン。2023年10月には代官山フォレストゲートにて「cafe&winebar maryjane」、2024年1月には虎ノ門ヒルズステーションタワー内にて和食居酒屋「Uké」をオープン。2025年3月、代官山フォレストゲート内のセレクトマーケット「Tide&Taste」のクリエイティブディレクターに就任。そのほか外部企業からの依頼による店舗プロデュースやメニュー監修などの活動も積極的に展開する。

 

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